2018年 05月 21日
キリストと聖セバスチャンの接吻 |
この絵は、たまたま時間があって入ったルーマニアの首都ブカレストにあるルーマニア国立美術館で見た絵。Sabin Poppという画家で1895-1928、30代にして亡くなっている若い画家の作品。
特に何か下調べしたわけでもないし、その後、調べたわけでもない。ただ、やはりこの絵は僕のような人間からすると思わず足を止めてみてしまうわけです。これはキリストと、その弟子の1人である聖セバスチャンの接吻を描いた様子。つまり男同士の接吻です。と、書いてしまえば、さすがに現代の僕らはちょっとした好奇心レベルで終わるものでしょうけれど、やはりこの時代背景や歴史的背景を考えると、様々なことを思わずにはいられません。
年代的には近代、そう遠い昔でもない、、とはいいつつも第一次世界大戦前の時代。まだまだ保守的で欧州でもソドミー法や、同性愛に対するバッシングどころか激しい憎しみと嫌悪、精神病者として扱われ投獄や死刑などもあった時代。そしてキリスト教という宗教面においても、これは今でも議論されていることだけれど、そもそも(今の)解釈としてキリスト教では同性愛を認めていないと言われつつも、実はキリストがゲイだったという説、そしてセバスチャンとは恋仲であったという説等々、歴史ロマンと言ってしまえばそれまでながら、それを絵にして作品として発表することの意味するものは、、、なんて思ってしまうわけです。
Poppはその歴史上の仮説を肯定するリアリスト的な画家だったのか、あるいは彼自身がゲイであったのか、何かしかの政治的メッセージがあったのか、とはいえこの作品を発表することはつまり彼の社会生活の破たんや、あるいは画家生命の終焉や、国家から罪人として追われる身、あるいは教会からの追放など、様々な迫害要因が考えられる時代。ちょっとこの1枚だけで、何か論文でも書けそうな。
今の時代、ネットで検索すれば男同士のキスなんていくらでも画像で無数に出てきます。今の時代と、そしてきっとなんらかの強い覚悟やメッセージ、確信、あるいはもしかすると何の使命があったわけでもなく題材としての面白さとして拍子抜けするほど意味なく描かれたものかもしれないけれど、この絵の前に立って、キリストにキスをするセバスチャンの背中はなんとも言えない悲哀と、そして人間の普遍の愛みたいなものを感じずにはいられず。
・・・そして例によって国立美術館とはいえ、常設展の展示場というのはえてして閑散としているものです。開館と同時の午前中に訪れた中、自分の靴音ばかりが高く響くこの展示室にあって、ずっとキリストの肩に手をかけてキスをしているセバスチャンが何やら愛おしくも感じました。
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by usatoru
| 2018-05-21 18:27
| 同性愛考・・・
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