2006年 06月 28日
月夜 -ねむり姫編- |
お祖母さんのご主人、つまり栗助のお祖父さんはユダヤの血を引いていたらしいです。彼らの時代のヨーロッパは・・・・ご存知のとおり、ナチスの権勢による不幸な時代でもあり、理由とはいえない理由でお祖父さんは突然彼女の目の前で連行され、それが夫婦の最後の別れになったそうです。彼女は、戦後も彼の生存と生還を信じ、その忌まわしい記憶を持つ、しかし彼らにとってはかけがえのない「我が家」を生涯転居することなく住み続けました。彼がいつでも帰ってこれるように。例え、彼の遺品の一つでも見つかるようであれば、その家で迎え入れたかった。そう、彼が連行された後、彼の消息は、まるで、そもそもこの世の存在していなかったかのようパタリと途絶え、生死は愚か遺品さえも結局戻らなかったといいます。
「人」を愛すること、このことを「時代と肌」で感じた女性だったのだと思います。当時の世相は(勿論、心痛めた多くの人もいましたが)、ユダヤ人は人間ではなく、憎むべき人間以下の存在でした。ヨーロッパ各地でユダヤ人狩りが行われ、多くが露と消えました。
そして、実はそういったユダヤ人と共に収容所に多く捕らえられ、やはり数万人が殺されたのが「同性愛者」でした。これはユダヤ人に限らずの話。青いダビデの星はユダヤの象徴、そして同性愛者達はピンクのダビデの星をマーキングされたといいます。
以下は僕の想像でしかないのですが、彼女の持つリベラルで人間愛を達観した思想は、愛するご主人がユダヤ系であり、そして時代と当時の社会的・政治的価値観によって最愛の人を失い、そして待ち続けたというその人生に裏打ちされたものなのであったような気がします。時代と経験が、彼女に人間としての真理を覚醒させ、そしてある意味での強さを身に付けさせた、とも思います。
おそらく、彼と引き裂かれた当時の彼女は今の僕よりも若い20代後半だったのではないかと。そして時代もあれから半世紀以上が過ぎ、新しい世紀を迎えました。その今、僕たち人間はあの過去から何かを学んだのか。そして僅かでも進歩したのか・・・・?一人で待ち続けた人生、その悲しみと憂いと、そして自分が彼を守れなかったという自己叱責の中で、彼女が栗助を温かい抱擁とキスで包んだことは、そう考えると全く不思議ではないと僕は思うのです。
そして彼女は、夜でも明るい百夜の森で、きっと今でも自分の傍らにご主人がやってくるのを長年そうしてきたように、今か今かとたった一人で待っているような気がするのです。
by usatoru
| 2006-06-28 18:38
| 僕らのこと
|
Comments(5)
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at 2006-06-28 22:45
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ブログの持ち主だけに見える非公開コメントです。
ナチスの事は歴史の教科書よりLife Is Beautifulや戦場のピアニスト等の映画で学びました。
人ってどうして自分と違うものに対して非難したり、自分と人を比べて優越を感じたがるんでしょうね。私も含めこの感情って多かれ少なかれ誰にでもあるものなんでしょうが、本当に酷い話ですね。
おばあ様は今頃天国でだんな様と幸せにいるんでしょうね。ずっとずっと待っていたから喜びも何十倍だと思います。
人ってどうして自分と違うものに対して非難したり、自分と人を比べて優越を感じたがるんでしょうね。私も含めこの感情って多かれ少なかれ誰にでもあるものなんでしょうが、本当に酷い話ですね。
おばあ様は今頃天国でだんな様と幸せにいるんでしょうね。ずっとずっと待っていたから喜びも何十倍だと思います。
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at 2006-06-29 00:35
ブログの持ち主だけに見える非公開コメントです。
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usatoru at 2006-06-29 00:47
woodyaさん。
Life is beautifulの、子供の前でゲームと称して収容所で健気に
明るく振舞う父親の家族への愛情が心を打ち、銃声の後の数時間後に
終戦を迎える・・・という、無情感。
戦場のピアニストでは、屋根裏で息を潜め、将校の前でピアノを弾き、終戦後に逆に囚われの身となったそのドイツ人将校との鉄格子ごしの再開。同じく、人間の愚かさと哀しさを感じさせる映画。
特にLife is・・・は、栗助のお祖母さんとお祖父さんの話にも
近く、僕も観ていて涙・涙でした。(音楽もいいんですよね)
でも、栗助をある意味見届けたお祖母さんは、やはりそれに関しては
とても喜んぶつつ天国に行かれたのではないかと僕も思います。
Life is beautifulの、子供の前でゲームと称して収容所で健気に
明るく振舞う父親の家族への愛情が心を打ち、銃声の後の数時間後に
終戦を迎える・・・という、無情感。
戦場のピアニストでは、屋根裏で息を潜め、将校の前でピアノを弾き、終戦後に逆に囚われの身となったそのドイツ人将校との鉄格子ごしの再開。同じく、人間の愚かさと哀しさを感じさせる映画。
特にLife is・・・は、栗助のお祖母さんとお祖父さんの話にも
近く、僕も観ていて涙・涙でした。(音楽もいいんですよね)
でも、栗助をある意味見届けたお祖母さんは、やはりそれに関しては
とても喜んぶつつ天国に行かれたのではないかと僕も思います。
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ぺこちゃん
at 2007-06-14 00:58
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文太さん こんにちは。
栗助さんのおばあ様のお話、もっともっと聞きたいような気がします。そのうち何かの機会に、男同士の国際結婚生活番外編?なんて感じで、ぜひ、助さんが語るおばあさまの思い出話を載せていただけたら、女性の読者達はみなとても感激すると思います(ちょっと大げさな言い方ですが)。
ところでLa finestra di fronteという映画をご存知でしょうか?(文太サン達のことだからすでにチェック済みですよね。きっと) 第2次世界大戦中、ローマのゲットーに住むユダヤ系イタリア人のゲイのカップルの悲しい恋がサブテーマになっています。収容所から生きて解放されたものの、パートナーを救うことができなかったという重荷を背負って生き続けてきたDavideの苦悩や切ない気持ちが画面からにじみ出てくるように伝わってくる作品。私のお気に入りの映画の一つです。
栗助さんのおばあ様のお話、もっともっと聞きたいような気がします。そのうち何かの機会に、男同士の国際結婚生活番外編?なんて感じで、ぜひ、助さんが語るおばあさまの思い出話を載せていただけたら、女性の読者達はみなとても感激すると思います(ちょっと大げさな言い方ですが)。
ところでLa finestra di fronteという映画をご存知でしょうか?(文太サン達のことだからすでにチェック済みですよね。きっと) 第2次世界大戦中、ローマのゲットーに住むユダヤ系イタリア人のゲイのカップルの悲しい恋がサブテーマになっています。収容所から生きて解放されたものの、パートナーを救うことができなかったという重荷を背負って生き続けてきたDavideの苦悩や切ない気持ちが画面からにじみ出てくるように伝わってくる作品。私のお気に入りの映画の一つです。