2007年 08月 17日
時間を経て味わいが出るということ。 |
そんな中で、今回ゆったりとした気分で市電に乗ったり、長距離のローカル列車に乗ったりして思うこと。それは、人間誰しもが感じるであろう「モノが時間を経て味わいが出て、美しくなり、そしてそこに使う人たちの気持ちや想いが反映されることによる調和と美しさ」です。日本の団体観光客のみなさんが街の中でももっとも美しく美観保護されたりしている部分を訪れて「やっぱり日本は木造だからダメだけど、石造りのヨーロッパは素晴らしいよね」的発言をすることに僕は激しく抵抗したくはなるんですが、まあ確かに石造りの方が物理的に長持ちしやすいというのは確かです。
でも、時間を経て味わいや落ち着きが醸し出されるということは必ずしも建築物の古さばかりではないはずです。京都の町並み、福島の大内宿とか、日本各地に残る昔ながらの街並み。もちろん、観光用に整備されたりとか、商業的側面はあったのしてもやはり建造年の古さだけでなく街を守り作り上げていこうという人々の営みや生活感に、訪れた人はある種の和みを感じるんだと思うんです。
観光地のドレスデン中心街を離れ、僕と栗助は路線バスに乗って適当に郊外の住宅地エリアなどをアテもなく・・・・そして時々、荒れ果てた、昔は瀟洒な館であったろう庭付きの一戸建てなんかが庭も荒れ果て、窓枠も崩れ落ちたような状態で残っていたりします。どんなに荒れていて、幽霊屋敷のような状態であっても僕は自分に資金があればこれを買い上げて自分でこれらの家に再び息吹を与え、自分たちで少しづつ手を入れながら「僕らの家」をつくりたいなあって思うんです。これが日本の〇〇ハウスのようなプレハブ住宅(っていうのかな?)であれば、古くなっても味わいもなく、もう築〇年だから立て直しましょうってことになってしまうわけで、しかも当然それらの古くなった家を見て「この家を買い取ってリニューアルして住みたい」って思わせるような家はそうそうないんですよね。戦前のしっかりとした古い家や、古民家のようなものは、逆にこれらのヨーロッパの古い家のような貫禄と風格がある。
ただ、ヨーロッパの家っていっても当然(日本同様に)全部が全部、そういった立派な家というわけでもなく、普通に古くなればただ古いだけの簡単なつくりの一戸建てやアパートだって当然多いんですけど、どうもそういうものは見えていても気がつかない日本人は多いかもしれません。まあ意匠の凝った素晴らしい建築物などに目を奪われてしまって、そちらに気が回らないのかもしれないですけどね。農家なんか立派な家もある一方で、決して貧しいわけではないのにすごく質素で簡単な家に住んでるっていうのは、ドイツ、フランスあたりでもよく見かけますし。
日本だけではなく欧州の各地で都市の再開発は盛んです。世界中で、新しく再開発された地区というのは清潔でモダンで美しく、木々も気持ちよく配置され、、、、結構どこも同じ顔をしています。東京の六本木ヒルズも、ロンドンのカナリーワーフも、ベルリンのポツダム広場も、北京やシンガポール、クアラルンプールの街も、なんだかみんな同じ顔をしています。そして、絶えずそれらは街の施設の拡張やリニューアルをすることで街の息吹を継続させようとしてる。でも、本当は、それらの街が完成した段階で街そのものはある意味で下降線をたどるわけだけれど、反比例するように、その時間に身を任せているだけの街に味わいや風格が出て、人工的には加味できないような付加価値的な空気が醸造されていく、、、ということも本来はあっていいはずなんですが、今はどうもこの感覚が世界中で欠如しているように感じます。ピカピカで眩しい近代的な新しい街が、これから先どのように年と風雪を重ねる中で人間同様に深みのある表情に変わっていくのか、、、、建物の築浅さやモダンさが売りになる価値観の中に街づくりがある限り、洋の東西にかかわらず、先人たちが築いてきたような後世の誇れる街というのは今の僕たちには残せないような気もします。
とはいえ、最近は幸いそうでもなくなってきましたが、「美観」という自分自身だけではない地域のグランドデザインの観点はこれまで日本は確かに欠如していたでしょうね。これからの日本の街は(世界全体にいえることですが)、
・地域の調和と美観によって自分の住むエリアや家の付加価値を高めるという意識
・古くなるということに抗うのではなく、古くなってより味わいが出るという価値観の再認識
・地域のオリジナリティの再興。(地方分権的な)
があると、かつての日本もそうだったように魅力的な街、街並みが形成されていくと思うんですよね。なんか、ちいと堅苦しいこと書いちゃってすんません。でも、極論的に言えるのは、町並みや建築物のことを言う前に、僕も含めてそういうことを言う人間自身が、自分の人生の時間を積み重ねていく中で、年齢とともに人間的な深みと人格を備えていくことができるかってことかと。そういう意味では、建物などと同様やたら「若さ」がもてはやされ、アンチ・エイジングなどという言葉がもてはやされること自体が、年を重ねることへの嫌悪や忌み嫌いのようなものを感じるし、お年寄り(いつかは自分もそうなるのに)を大切にしない子供たちが育つ精神的な土壌になってしまっているような気もするのです。
by usatoru
| 2007-08-17 16:53
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Comments(12)
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linixedda
at 2007-08-17 18:23
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今日はもしかしてコメント一番乗りでしょうか?ちょっとうれしい。
今日の記事、すごく日本の皆さんに読んでほしい。文太さんの言う通りだと思います。最近日本のどこの街へ行っても同じように見えてしまって、だから観光もいまいち面白くないんじゃ、と思います。文太さんのおっしゃる通り、パリのデファンスもロンドンのシティーも、千葉の幕張も、みんな似てますよね。
あと、ヨーロッパに来た日本人がよく言う、「石の文化はやっぱりすごい」とか、「道具を使う文化には勝てないな」とかいう言葉に、私も激しく抵抗してしまいます。石の文化がすごくて木造が劣っているなんて、それは単に耐久性の問題で、文化の優劣にはまったく関係ないですよね。ヨーロッパの装飾が施された大きな建物群に圧倒されてしまうのは分かりますが、そこで卑屈になり、自分の国の文化を否定してしまってはどうにもならない、と思います。日本の建築には近代ヨーロッパが真似しようとしたようなすばらしいものがたくさんあるんです。
長くなってすみません。
英語教育もいいけど、なんで日本語の文法とか作文とかもっとちゃんと教えないの?と問いたい今日この頃です。
今日の記事、すごく日本の皆さんに読んでほしい。文太さんの言う通りだと思います。最近日本のどこの街へ行っても同じように見えてしまって、だから観光もいまいち面白くないんじゃ、と思います。文太さんのおっしゃる通り、パリのデファンスもロンドンのシティーも、千葉の幕張も、みんな似てますよね。
あと、ヨーロッパに来た日本人がよく言う、「石の文化はやっぱりすごい」とか、「道具を使う文化には勝てないな」とかいう言葉に、私も激しく抵抗してしまいます。石の文化がすごくて木造が劣っているなんて、それは単に耐久性の問題で、文化の優劣にはまったく関係ないですよね。ヨーロッパの装飾が施された大きな建物群に圧倒されてしまうのは分かりますが、そこで卑屈になり、自分の国の文化を否定してしまってはどうにもならない、と思います。日本の建築には近代ヨーロッパが真似しようとしたようなすばらしいものがたくさんあるんです。
長くなってすみません。
英語教育もいいけど、なんで日本語の文法とか作文とかもっとちゃんと教えないの?と問いたい今日この頃です。
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じゅんべ
at 2007-08-17 19:10
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わたしは石の文化のほうがすごいって思ったこと無いなあ。。。法隆寺の五重塔が残っていることのほうがすごいなあと思ってます。というより、どちらもそれぞれ昔のものが現在も残っていることがすごいと思うから。
日本て便利になった変わりに、地域性がどんどん失われてますよね。例えば京野菜だってちょっと高いお金を払えば、京都に行かなくても買える訳で。。。(全世界のものが手に入ると言ったほうがいいのかな)建物もなんちゃって南欧風とか日本の風景に全然そぐわないものばかり。古いものを直しながら住み続けていくことはそれはそれは、大変な労力・費用がかかるから、一世代しか保たない家を選択するのだとは思います。でも使い捨て文化はそろそろ見直して欲しいなあと思います。とりあえず最初にちょっと投資して、良いものを長く使いたいなあと。。。
日本て便利になった変わりに、地域性がどんどん失われてますよね。例えば京野菜だってちょっと高いお金を払えば、京都に行かなくても買える訳で。。。(全世界のものが手に入ると言ったほうがいいのかな)建物もなんちゃって南欧風とか日本の風景に全然そぐわないものばかり。古いものを直しながら住み続けていくことはそれはそれは、大変な労力・費用がかかるから、一世代しか保たない家を選択するのだとは思います。でも使い捨て文化はそろそろ見直して欲しいなあと思います。とりあえず最初にちょっと投資して、良いものを長く使いたいなあと。。。
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ぎょろ
at 2007-08-17 22:19
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文太さま、いつも楽しく読ませていただいてます!
日本のすごいところのひとつは、木造建築を千年以上も修理・保存してきたその技術自体を伝統として捉えているところ。この発想は西洋でもだんだん取り入れられているところだと思います。こういう考え方は石の文化じゃ生まれなかったんじゃないかな。でも、このことを知っている日本人がどれだけいることか…。
日本と西洋の文化って時に対極にあって、お互いにとても刺激的。自分の文化に根ざしつつ、新しい物にも目を向けることによってこれから何百年も使われる物が生まれるんだろうな。海外で生活していてそう思いました。
日本のすごいところのひとつは、木造建築を千年以上も修理・保存してきたその技術自体を伝統として捉えているところ。この発想は西洋でもだんだん取り入れられているところだと思います。こういう考え方は石の文化じゃ生まれなかったんじゃないかな。でも、このことを知っている日本人がどれだけいることか…。
日本と西洋の文化って時に対極にあって、お互いにとても刺激的。自分の文化に根ざしつつ、新しい物にも目を向けることによってこれから何百年も使われる物が生まれるんだろうな。海外で生活していてそう思いました。
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しろ
at 2007-08-18 02:00
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文太さん、はじめまして。 いつも楽しく読ませて頂いてる元ベルリナーのしろです。
ポツダム広場やベルリン中央駅周辺など、ベルリンの東西のボーダーで開発から取り残された空き地が、東西統一後に、どんどん新しく綺麗な場所に生まれ変わって言ったり、旧東っぽいものが取り壊されたりするのは、ベルリンらしい一面とは思うのですが。。。でも、私には、余りに人工的過ぎて苦手だったんです。
私も日本の古い建物の方が凄いって思ってます。だって、釘を使わずに建てた木造建築もありますよね。すごく精巧な作りだし、職人さんの技は、本当にすばらしいって思います。
もちろん、地震が多い国っ理由もあるから、木造なんだと思いますが。
なんとなく、西洋文化に少ない、日本人特有のしなやかさとか、安全な国と言われてる(言われてた?)のは、こう言う所から来てるのかな?って気がします。
三匹の子豚の話で、2番目の子豚が(日本で暮らすなら)賢く思えるのは私だけですかね?
ポツダム広場やベルリン中央駅周辺など、ベルリンの東西のボーダーで開発から取り残された空き地が、東西統一後に、どんどん新しく綺麗な場所に生まれ変わって言ったり、旧東っぽいものが取り壊されたりするのは、ベルリンらしい一面とは思うのですが。。。でも、私には、余りに人工的過ぎて苦手だったんです。
私も日本の古い建物の方が凄いって思ってます。だって、釘を使わずに建てた木造建築もありますよね。すごく精巧な作りだし、職人さんの技は、本当にすばらしいって思います。
もちろん、地震が多い国っ理由もあるから、木造なんだと思いますが。
なんとなく、西洋文化に少ない、日本人特有のしなやかさとか、安全な国と言われてる(言われてた?)のは、こう言う所から来てるのかな?って気がします。
三匹の子豚の話で、2番目の子豚が(日本で暮らすなら)賢く思えるのは私だけですかね?
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tora-chan911 at 2007-08-18 02:56
こんにちは、いつもブログ拝見させていただいています。
文太さんの言っている”地域のグランドデザイン”とても共感しました。
以前に、建築家の隈研吾さんの作品を見た時に、この地域のグランドデザインの大切さを改めて認識させられました。 それは、その地域にしか表現できない、住んでいる人達に、なじんだ建物の大切さがあると、、、。
私は、サンフランシスコ在住なのですが、他のアメリカの街に比べて、古い建物が多く、市の建築基準法も厳しいのですが、この古い建物を住人が上手く現代の生活にマッチさせて生活しているのが、町を魅力的にしているんだと常々思ってます。
文太さんの言っている”地域のグランドデザイン”とても共感しました。
以前に、建築家の隈研吾さんの作品を見た時に、この地域のグランドデザインの大切さを改めて認識させられました。 それは、その地域にしか表現できない、住んでいる人達に、なじんだ建物の大切さがあると、、、。
私は、サンフランシスコ在住なのですが、他のアメリカの街に比べて、古い建物が多く、市の建築基準法も厳しいのですが、この古い建物を住人が上手く現代の生活にマッチさせて生活しているのが、町を魅力的にしているんだと常々思ってます。
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MOMO
at 2007-08-19 14:07
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この記事にひどく同感しました、の一言につきます。旅行楽しんでくださいね~~~!!
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usatoru at 2007-08-19 17:47
linixeddaさん。そうですよね。誇りを持つことって「鼻が高い」というのは別なニュアンスであって、そういうスタンス自体も「美しく」?感じられる側面もあると思うんです。日本人は、きっと自国に誇りを持つ人たちに対してあこがれてるんだと思います、きっと。
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usatoru at 2007-08-19 17:48
じゅんべさん。これからは少しずつでも地域性回帰に日本も向かっていくんじゃないかなと思います。心の余裕が出てきたっていう前向きな意味で(笑)。僕ら自身も心がけたいですよね。
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usatoru at 2007-08-19 17:50
ぎょろさん。そうそう伊勢神宮などは30年に1回?だったか神殿を完全に取り壊して一から造営しなおすということを大昔から繰り返して、巧みの技を伝承しているんですよね。おかげで僕らは昔の建築をNEWの状態で今日、目にすることができる。素晴らしいです。
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usatoru at 2007-08-19 17:53
しろさん。ベルリン中央駅周辺は歴史的に物理的にも仕方がないのかもしれませんよね。確かに日本人的には人工的すぎますけどね(^^; 日本の建築は四季、湿気などを考えると木造が一番。石の家なんて冬は寒くて夏は湿気ですごいことになりそう、冷暖房のない昔の日本では(笑)
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usatoru at 2007-08-19 17:55
tora-chan911さん。こんにちは。サンフランシスコもそういう雰囲気、ありますよね!僕もボストンにいたことがあるので、SFOやボストンには東西の地域差はありますが同じ匂いを感じました。自分の家の壁をペンキで塗る楽しさ、忘れたくないなあ。
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usatoru at 2007-08-19 17:56
MOMOさん。ご声援ありがとうございますっ。って選挙カーのようなコメントですが(^^;