2007年 07月 08日
朝霧の向こうに -超短編小説風- |

僕らの中での「最高の朝を導く方程式」。まずはカーテンの隙間から一条に伸びる眩い光をまずは部屋中に満たすべくカーテンを開け放つ。首尾よく、片や栗助がセットしたコーヒーがポコポコと小気味良いリズムを奏でながら、一気に部屋を満たしたその光と共に、芳しいコーヒーの香りが部屋の中に広がっていく。窓から広がる溢れる緑。都会で見慣れた街路樹も、それこそあの場では僕らに潤いを与えてくれるけれども、この緑の濃さと、そしてこの緑と豊かな土の香りはどうだ。やはりこの香りはおそらくはその大地の香りと相まって僕らの五感を刺激し、僕らの体内で普段眠ることを強いられている自然に共鳴する何かが、突如として躍動を始める。
今日は朝のニュースも新聞も見なくてもいい。見る気さえ起こらない。今、大切なのはさっき聞こえたカッコウが次に鳴くのはいつなのか、先ほどから目の前の小枝に留まっている尾の長い美しい鳥が何気に僕らの会話を全部分かっているんじゃないかということ。そして、この朝霧のベールが晴れた次にこの林の向こうには何が見えるのか、という興味と。奥深い霧の向こうから聞えてくる小鳥達のさえずりは概して楽しげで、心和む朝の旋律となって僕らの耳に届く。そしてウッドデッキの上で、ゆっくりと朝の散歩を楽しんでいるカナブンが、どうか栗助のいる部屋の中に入っていかないように・・・・という小さな願いと。入ってしまえば、きっと栗助は大騒ぎする(笑)
夕べ、僕らを包んだ高原の夜の闇と、そしてこの朝の霧は、確かに僕と栗助に何の仮面を被せることなくありのままの僕らでいさせてくれた。でも、もう既にその夜の闇は気配さえ遠くに去り、そして今は陽の高さに比例して厚い雲のようだった霧も、薄いシルクのベールのような繊細な表情をみせ、そしてもうすぐ彼らも消えていく。僕と栗助は無意識にまた、昨日の夕暮れと同時に脱いだ仮面を被りなおし何事もなかったかのかのようにもう1つの日常に戻っていく、この朝の瞬間。
都心から車を飛ばして約2時間の高原。
ここにわざわざこなくても、僕らの日常はあるけれども。僕らの日常は、僕らが毎日過ごしている時間の全てが日常なんだけれども。それでも時々、都会にも同様に毎日訪れる夜の闇と、そして気まぐれな霧でさえ現れるとはいえ、こうして遠く自分達の拠点を離れて、人のいない静かな山の中でもう1人の僕たちに会いたくなる時がある。そう、何もここまでこなくても、もう1人の自分は僕も栗助もそれぞれの心の中にいるのだけれど、でもなぜか「彼ら」にはここで会いたくなる。慣れてしまった僕らの複雑で二面性のある日常は、僕らにとっては何のことはないことで、いわゆる多くの人が家庭と職場での二面性があるようなものであるのだけれど。でも、時々ふと肩の力を抜いて、夜の持つ静かな空気の中に身を置いて大きな深呼吸をしたくなった時、僕は時折ふいにハンドルを握り、まるでこの高原の霧の中を歩くことで僕らの何かが蘇生するかの如くこの森を目指している。

by usatoru
| 2007-07-08 12:22
| 詩みたいなモノ
|
Comments(12)

今日も仕事をしている私。
仕事中にこっそりと文太さんのブログを覗く。
あー、立ちっぱなしでくたくたのこの足も、お客様のご要望に答えるために、一生懸命働いてくれている目も耳も、お客様の手前気を使いながら
社員に指示を出すこの脳みそも、口も、高原に一瞬行きまして、今、癒されました。思わずイメージが湧いてくる素晴らしい文章です。
さあ、また現場に行ってきます。
仕事中にこっそりと文太さんのブログを覗く。
あー、立ちっぱなしでくたくたのこの足も、お客様のご要望に答えるために、一生懸命働いてくれている目も耳も、お客様の手前気を使いながら
社員に指示を出すこの脳みそも、口も、高原に一瞬行きまして、今、癒されました。思わずイメージが湧いてくる素晴らしい文章です。
さあ、また現場に行ってきます。
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いいですねぇ~
近場でも日常と離れてのんびり出来るところを知ってるって
ステキ。出来れば1週間とか思うけれど週末だけでもまた
生き返りますよね。 私も夏にどこかコテージ借りて出かけたい
と思いましたぁ。 車あるっていいなぁぁぁ
近場でも日常と離れてのんびり出来るところを知ってるって
ステキ。出来れば1週間とか思うけれど週末だけでもまた
生き返りますよね。 私も夏にどこかコテージ借りて出かけたい
と思いましたぁ。 車あるっていいなぁぁぁ

いつもお忙しい文太さん。 栗助さんと素敵な週末を過ごされたようで、ちょっとホッとしています。 森の木々の香り、土の香り、etc... 自然が持っている大いなる力は、私達を癒してくれて、日々の生活で失いつつある自分の中の何かを取り戻すことができる・・・そんな感じがします。
ところで栗助さん カナブンとか昆虫類、あまり得意でなかったりして?
ところで栗助さん カナブンとか昆虫類、あまり得意でなかったりして?
プチ旅行、いいですね~。文章から清々しさが伝わってきます。
今は大都会からはちょっと離れていますが、けっこう都会大好き派なので、「都会からの喧騒からの脱出」って、自分的にはちょっと違う気がしますが、「人間らしい」という意味ではいいのかな、きっと。
自然と状況描写の中にある、心理描写の部分がわたしは好きです。
「もう一人の自分はそれぞれの心の中ににいるのだけれど、でもなぜか「彼ら」にはここで会いたくなる。」というフラーゼ、いいですね~。
今は大都会からはちょっと離れていますが、けっこう都会大好き派なので、「都会からの喧騒からの脱出」って、自分的にはちょっと違う気がしますが、「人間らしい」という意味ではいいのかな、きっと。
自然と状況描写の中にある、心理描写の部分がわたしは好きです。
「もう一人の自分はそれぞれの心の中ににいるのだけれど、でもなぜか「彼ら」にはここで会いたくなる。」というフラーゼ、いいですね~。
ともこさん。お仕事お疲れ様です。接客の仕事って大変ですよね・・・僕もなるべくよいお客さんであろうと頑張っていますが、なかなか(^^; って、別にフツーですけどね。少しでも僕らの今週末の高原の空気を感じていただけたなら幸いです~
prtitcoco611さん。そうなんですよねえ、都心でクルマを持つってある種贅沢なことってわかってるんですけど、これだけは手放せない。ふとしたときにすぐに違う土地にいけるし。でも栗助が歩かなくなるので困りますけどね(^^;
sarasa618さん。僕らも時々ですが、ふと思い立ってゆっくり~って感じですけど、こういうのは時々だからいいんでしょうね。お互い出張やらで、久しぶりにのんびりしました。すっごく短い時間でしたけどね。
HEROさん。多分そういう気持ちは全く同じなんだろうね。そういう場所があるっていうのはお互い幸せなことだなあ、って思いますよー。
ぺこちゃんさん。自然の力は偉大だけれど、自然が創りたもうたカナブンやら昆虫は、その存在だけで栗助を殺すことができます。きっと、彼らを見ただけで栗助は超音波を発し、そのまま息絶えるのではないかと思います・・・・・
Jacquelineさん。なんか、こういう自分はこういう場所で一番自分らしくなる・・・的なシチュエーションとか心情ってあると思うんですよねえ。時々、そんなことを思って一人で脳内旅行をしている僕です(^^;